想い出のなかの、養殖魚

赤く、紅く、朱く、そして漆黒へ

みかんのにおいのする魚は、想定外。

沢木でございます。

 

ひとつ前の記事で、「養殖魚の価格の低迷」に 若干触れました。

養殖業というものは、なんと言いましょうか、

乾坤一擲の博打のような、そういった要素を含んだ分野と言えましょうか。

魚価が、キロ当たり、シーズンごとに 50~100円も変動する。

それも生産コスト事情が、流通に反映するわけでもなく、市場で魚が過剰になった瞬間に 価格が変わる。

 

 

市場からすれば、

「値段が安い? もっと上げろ?

 ああそうですか・・・、取引先は、他の県の業者さんたちもおいでや。

 あんさんらがイヤなら、うちはアンタらから仕入れんでもええんやで?」

ここまでぶっちゃけることはないでしょうが。

 

 

養殖魚、マダイやハマチに関しては、供給過剰ということは、否めません。

「漁師の好き勝手にさせたら、海は滅ぶ」

というのは、地元のとある名士の言葉でしたが、正直 真実です。

需要に対して、生産が過剰・・・ それもかなり過剰になっているのなら、

事業継続の見直しや、継続自体を断念して、計画的に終息させることを決断せざるを得ないと思います。

あるいは、魚への高付加価値や販売戦略の見直しも、取り組むべき課題であったと思います。

 

 

いや、実際に、「みかん」の名前を冠した魚を生産するという取り組みを行なっていた・・・ というのは、あるにはあった。

価格も、通常のものより、+50~100円程度で 市場に卸せたそうですし。

ただ、「美味しいかどうか」 という点においては、甚だ疑問な魚ではありました。

 

 

 

養殖魚というのは、昭和の終わりの頃の、あの味。

平成の、ここ10年の味とは、かなり変わったと 私個人は思うのです。

「生臭い、脂ぎっとり、日持ちしない」から、

「新鮮さを感じるかおり、ほどよい脂、一晩寝かせてもうまい!」 へと。

 

 

昔、子どもから、『美味しんぼ』というマンガを借りて読んだことがあります。

そのなかで、日本の養殖魚は、オーストラリアのそれと比較して、味も安全性も、いろいろな面において劣っているように 描かれておったと記憶しています。

そして、それは、ほぼ否定できんかったと、当時思いました。

スーパーさんですとか、魚屋で、消費者のお客さんに そこまで自信もって薦めれなんだ。

 

しかし、それも昔のこと。

平成に入って以降は、やはり技術も進み、養殖魚もふつうに美味いと思うものが多くなった。

しかしそれでも、売れない。 

「美味いだけでは売れないのだから、付加価値を付けよう!」

 

 

個人的には、いささか首をひねったものです。

付加価値とは、そも、なんぞや。

 

 

みかんの匂いのするタイやハマチ。 作ってみました。

生臭さが感じられなくって、小さな子どもでも刺身で食べれます。

消費者に、受けが良かったです。

 

個人的には、いささか首をひねったものです。

 

そも、「小さな子どもに、もともと苦手な魚の刺身を食べさせる」とは?

水揚げして、すぐに捌いた魚なら、

タイにしろ、アジにしろ、キビナゴにしろ、

さわやかな匂いですし、子どもも そう苦手なものではないでしょう。

しかし、養殖魚はちがう。

水揚げして出荷。 陸送で、二日後~三、四日後で、市場で取引される。

いくら冷蔵しての移動とはいえ、やはり 産地で食すのと、東京や以北で消費者が購入して食すものとでは、大きな隔たりがある。

 

そも、「受けが良かったです」 とは?

どんな商品も、新しく出たときは、みんな物珍しさ、目新しさで飛びつくものです。

それが、初登場の熱が落ち着いても、以降 つづけて消費者に愛されるには?

よいものを、できるだけ同じように供給させる。

商品自体の物語、それを訴求すべきである。

そも、みかんタイやハマチの登場の背景には、

ジュース工場の 「搾りカスの処分」 があった。

廃棄される、柑橘類のカスの減量が、主目的であった・・・ そう、関係者自身が 平然と言い放つのが事実です。 

「魚の身に、みかんのにおいが付くのは想定外」 とも言っておりました。

 

 

事実は、そうであってもよいのですが、やはり消費者受けは、よろしくないでしょう。

物事は、言い様と、イメージ付けでどうとでもなる。

 

みかんのカスにしろ、直截に言い過ぎ。

かすを食べさせた魚など、消費者がありがたがるものだろうか。

一パック200円くらいなら買うだろうけれど、そんな低価格の値付けは出来ないだろう。

 

例えば、無農薬、低農薬で生産した柑橘類の、限定農園のものを使用。

どの時期から、みかんを餌料として与えたか。

(実際のところ、柑橘類は、魚の生育にあまり良い影響は与えません)

どのような魚を、みかんタイやハマチとするのか、はっきりとさせて公表する。

また、魚、あるいはみかんの生産者は、どのような職人か。

消費者の手元まで届く間、どのような流通経路をたどっているか。

 

 

つまり、商品のブランドイメージの確立と訴求、定着化。トレーサビリティ。

それに、商品の 「 物語 」 

そういったことを、はっきりさせるべきではなかったのかと、当時 考えていました。

そういったことを、ほとんど置き忘れて突っ走った結果、似たような商品があふれて、ブランドイメージというものは、無いようなものとなったと聞いています。

 

 

「ちょっとぜいたくして、

 今夜のおかずは、みかんタイのお刺身でも買って帰ろうかしら?」

 

 

そう、スーパーの鮮魚売り場で、奥さんに 手にとってお買い上げいただけるような。

そんな魚を私は売りたかった。

お値打ち品であったなら、毎日はムリでも、半月に一回くらいは、リピーターも付いたでしょうよ。