うちの鯛が、あかくなくて、どうするんでぇ?
沢木でございます。
じつは先日、鯛をいただきました。
養殖の真鯛です。
エラから刃を入れて活け締めにして、水氷で冷やした後、クーラーボックスに氷といっしょに入れて 持ってきていただきました。
気温も高くない日でしたので、氷が溶けてくる前に、捌き始めることが出来 たいへんいいタイミングであったと思います。
養殖のタイと申しますのは、天然ものと比較しまして、
「タイの赤みがキツイ、人工的だ」
「尾の先が黒い」
「脂が多い」
など、いろいろ言われまして、やはり評価は低い。
桜鯛が出回る時期ですと、わざわざ養殖物に手が出ないくらいです。
実際、タイの赤色を付けるのに、養殖鯛ですと、アスタキサンチンという色素物質を一定量 餌に混ぜて食べさせるわけです。
アスタキサンチンは、エビなどにも含まれており、深い海の底におる 天然タイですと、エビやオキアミなどを食べ、自然な赤色になるわけです。
ただ、養殖タイですと、養殖生け簀の深さ自体がそれほど無くって、海表面に近いので、やはえい紫外線やけするなどして、あの一種独特の えぐい赤色になるわけです。
まぁ、「赤色がちがう!」 からといって、養殖タイが美味しくない!
必ずしも、そんなわけはないのですが。
あくまで、見た目が8割とするなら、養殖の赤では、天然の赤には敵わないというだけだと思います。
むしろ、アスタキサンチンは、色素抽出するさいに、アセトンやヘキサンなどの石油系溶剤が使用されており、イメージとして そちらのほうが問題であろうとは思います。
最終的に、食品中に残留していないとはいえ、消費者はいやがるかもしれません。
イメージは、大切です。
養殖タイは、2~5月頃に産卵します。
水温が高い、南の海から、順次 産卵が始まり 北の海へあがってくるのですが、
「産卵前線北上中!」 と冗談めかしながらも、あの時期は ヒヤヒヤしたものです。
と申しますのも、タイは産卵しますと、表面が赤みを失い 黒くなります。
雄のタイなど、この時期は、まさにガングロであり、
「まっくろマダイ」 などは、見た目は黒いわ、身質も 脂が抜けて美味しくないわ。
そんな養殖タイが、魚市場に持ち込まれると 、市場の人間も 電話でクレームを入れるほどでした。
単純に、「美味しくない」 時期の魚・・・ ということもありますしね。
アスタをある程度混ぜた餌を食べさせなければ、赤みが付かぬ。
養殖タイの生産者の皆さんは、魚を生け簀から取って出荷する、だいたい三ヶ月ほど前から、この赤みを付ける餌を増やします。
しかし、「日本人の食卓で、魚離れが進んでいる」
そう、危惧されていますが、それは すなわち 養殖タイも 「 売れない 」 ということでもあります。
私自身も、東京ですとか、名古屋ですとか、いわゆる大都市圏では、ぜったい養殖魚は食べません。
魚離れがどうこう・・・ ではなく、単純に、陸上輸送された魚というものは、往々にして 味が落ちているからです。
魚を活かしたままにしろ、締めて 冷蔵するにしろ、水揚げして陸送された魚は、美味しくない。
水揚げした場所で、締めて、その日のうちにいただくのが、やはりもっとも美味しいからです。
午前中に 魚を締めて、水氷で しっかりと急速冷却させる。
( この場合、水氷というのは、海水と氷を 2:1くらいの割合で混ぜます。
塩分を含んだ水に氷を混ぜることで、水温を零度以下まで下げ、一気に魚を冷やすことで 身のヤケも防ぐことが出来るからです。)
一時間ほど冷やしたら、水氷から魚を取り出し、ビニール袋で包み、スチロールやクーラーボックスに移して、シャーベット氷などを入れて冷蔵保管。
夕方頃に捌いて、夕食でいただくのがベストではないかと思います。
旨み成分の生成・・・、ということについては、また記事を変えて そのうちにでも書いてみたいモノです。
話が逸れましたね。
養殖タイの赤みについてでした。
いくら天然の赤に劣るといえども、養殖のタイも 赤くなくてはならない。
しかし、魚が売れづらい。 昭和の頃に比べて、売れ行きが悪い昨今では、タイを赤くすることを疎かにしがちな養殖魚生産者が多くなっています。
タイの値段。
流通の始まりとも言える、そもそもの川上である 「生産者」
生産者 → 問屋 → 市場
→ 仲買 → スーパーなどの小売り → 一般消費者
魚も、このような流れで流通していきます。流れの上流である生産者から、末端の消費者にまで魚が移動する過程において、「魚の値段」 というものは 諸経費とともに上がっていきます。
原則、生産者が いわゆる出荷をした際に受け取る、タイのキロ単価というものは、けして高いものではない。
養殖タイの過剰生産によっての値崩れも、主たる要因とは思うのですが・・・ タイもだぶつくのです。
タイが、キロあたり710円くらいであれば、生産者もトントンという時期があったのですが、その頃でさえ、出荷時にキロ650円の値付けがされることもありました。
当然、生産者も、「コストをかけられない」 と、いろいろな部分をコストダウンさせるようになります。
タイの赤みをつける・・・ という部分でも餌をケチって、あまり鮮やかな赤みをつけようとしなくなるのも、分からぬでもない。
キロあたり、500円台後半や600円台前半の頃の、養殖タイというものは、
「真っ黒マダイ」
に近いモノも出回り、胃が痛くなったものでした。
そんな中でも、
「沢木さん、うちの鯛が、あかくなくて、どうするんでぇ?」
そう嘯いて、やれる範囲で 養殖タイの赤みをつけていた生産者もいます。
タイの値段が安いのは、むかつくけど、今は、仕方ない。
コストはかかるけど、今は、仕方ない。
自分たちにも、宇和海という、いやしくも日本一の養殖産地で、
うまくてきれいなタイの生産者だという自負がある。
やれる範囲で、工夫して、きれいなタイを作る!
そう、努力する生産者たちもいたのは、感動したモノです。
引退して久しい私ですが、そういった意識の高い生産者さんとは、いまでも親しくさせてもらっています。
「うちの鯛が、あかくなくて、どうするんでぇ?」
そう、よいタイを作ろうと努力される生産者がいる一方で、
「どうせイイ値段で売れないから、ほどほどでエエやん」
そう、低品質のものを作って恥じない生産者もいる。
どちらも、「過去のもの」ではなく、今現在のものです。
市場への供給過剰な昨今、どちらの生産者に、養殖を続けてほしいかは・・・言うまでも無いですね。