想い出のなかの、養殖魚

赤く、紅く、朱く、そして漆黒へ

魚の単価。

沢木でございます。

 

 

今週、養殖タイの最低キロ単価が、ついに800円の大台に乗ったようです。

すばらしい。

業者と市場との熾烈な攻防が、いっそう高まることでしょう。

 

画像のような、こういったタイを作る生産者のタイでも、もちろんキロ800円は保証されるというのだから、まっこと すばらしい。

 

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「最低キロ単価」 という表現をしたのは理由があります。

たとえば、

サイズ1.0キロのタイ、1.5キロのタイ、1.8キロのタイ、2.0キロのタイ の4尾のタイがあったとする。

キロ単価、800円として、この4尾のタイは、一律 キロ800円で取引されるのかというと、違います。

タイでも、サイズが1.5キロを超えるものは、キロ830円で取引されることもある。

2.0キロを超えるものは、キロ900円などということもある。

サイズによって、かなり幅があります。

これは、タイが、稚魚から養殖を始め、成長し、出荷して売却できるようになるまで、一年半~二年、二年半という期間が必要であり、その間にかかる 餌代、養殖生け簀代、人件費などを考慮すれば、大サイズを育てるまで 一般に長い時間が必要なので そのコストを反映すると考えれば 不思議ではありません。

 

が、実際は、ちがう。

おおざっぱに言えば、水温が高い南の海域の養殖は、冬場の水温も大きく低下することがなく、通年 給餌が行なえ、おおざっぱに言って、タイが出荷サイズになるまでにかかる時間は、短い。

対して、北の海域になるほど、冬場の水温は、「タイの生存限界に近いんじゃないか?」 というほど、極端に低下するため、冬場は タイの給餌は急激に減り、そのぶん タイの育成が南に比べて よろしくない。

コストを追求するなら、養殖の条件は、南のほうに分があると言えるでしょう。

おおざっぱに言えば、ですが。

ですので、実際にかかるコストというのは、宇和海沿岸一律ではなく、「各生産者が、企業努力してどうにかなる」 レベルを超えているものがあるのも事実でしょう。

 

さきほどのキロ単価ですが、これもまた、タイを各サイズに育てるのにかかった コストを反映させての、単価の幅が設定されている。

というわけではない。

業者というのは、そんな生易しい連中ではありません。

市場で流通しているサイズ、供給の少ないサイズ、需要のあるサイズであるかどうかに重きを置いての価格設定です。

過剰に、市場に流れ込むサイズであるほど、単価は急落します。

私が現役の頃は、そうであったし、今でも その 不文律は覆っていないと思います。

 

 

今回の写真は、先日、浜に行って 出荷を そうたいぶりに見させてもらった際のものです。

頭に大きな陥没がありますね。

頭の組織内で、融解して空洞が出来、グチャッと潰れたような空洞部分が露出した状態です。

典型的な、エドワジエラ症のタイです。

出荷生け簀の中で、フラフラ泳いでいて、出荷のカゴの所まできたものを すくって床に転がしたときに、スマートホンで撮影しました。

 

 

エドワジエラ、私たちは、「エドのタイ」と言って、さほど驚きません。

こういう、病気にかかったタイというのは、養殖生け簀のなかでは、普通に泳いでいるし、そういう病気にかかっているタイのいる生け簀でも、出荷してきたからです。

けれど、スーパーさんなんかで、タイの刺身を買う人にとってはどうなんでしょう。

 

こういった、エドにかかったタイがいる生け簀の魚。

もしかしたら、エドの症状が劇症化する、一歩手前のタイだったかも、という恐れが無くもない。 そんなタイの刺身かもしれんのです。

 

タイのエドワジエラについての想い出は、また 別の機会にでもするとして。

いまはただ、昔 稚魚メイカーさんが言い放った言葉、

「エドのタネは、稚魚にはもう入ってるもんなんですよ」

平然として言った、この言葉を記しておきましょう。

しわきたおしてやろうかと、むなくそが悪かったですわ。

 

 

こういった、エドのタイを、生け簀の中で、たくさん出す生産者。

(たとえば、生け簀一台で、5%)

逆に、エドのタイが、きわめて少ない生産者。

(たとえば、生け簀一台で、0.2%)

両方が、同サイズでタイを出したときに、ただ、サイズを満たしているからと 同じキロ単価で仕切られる。

 

私は思うんです。

それはたとえば、エドのような病気のタイが少ないですとか。

タイの、色目。 あざやかな赤色ですとか。

尾が、さほど黒ずんでおらず、きれいに揃っているですとか。

もっとも肝心なところ、捌いてみて、肉質が良いか悪いか。

そういったところで、キロ単価を決めてほしいものだ、と。

今さらですが。 今でも、思います。

 

また、スーパーでタイを買う人たちも、

「私の買うタイは、どんなタイ?

 あなたはどこから来たのか、どんなふうに育っていたのか?」

そういうことを知ろうとしてほしい。

トレーサビリティ。

せっかくの、品質のシステムではありませんか。